小児脳幹部グリオーマ
「DIPG」は
難治性小児脳腫瘍です。
「小児脳幹部グリオーマ」とは脳幹部に発生する腫瘍です。
このサイトで指す疾患は、正確には「びまん性内在性橋グリオーマ」です。
(英語では、diffuse intrinsic pontine glioma : 略称「DIPG」と言われています)
(1) 脳の構造
脳は上部の大部分を占める「大脳」、後頭部付近の「小脳」、真ん中にある「脳幹」によって構成されています。
橙色の部分が脳幹です。
(2) 脳幹
上から中脳、橋、延髄と呼びます。
ここには、運動神経や顔面神経、呼吸、血圧を司る神経など、生命活動にとって欠かせない重要な神経が集中しています。
(3) 腫瘍の画像
「橋」の内部に腫瘍が発生するのが「DIPG」です。
白く写っている部分が腫瘍です。
脳幹全体が大きく腫上がっています。
この腫瘍は瀰漫性(びまんせい)といって、内部を走る神経にべったりとはりついています。
よって重要な神経を傷つけずに手術で摘出することは、どんな神業を持った脳外科医にも不可能です。
(4) 病気の症状
脳幹部の神経が腫瘍の影響を受け、顔面や眼球の動きが麻痺し、飲み込みが困難になり、手足が麻痺してふらつき、歩行困難となり、最終的には呼吸や血圧の維持が難しくなってきます。
(5) 治療は放射線
唯一の治療法は放射線療法です。これが「標準治療」です。抗がん剤はほとんど効果はありません。
放射線は、多くの場合、効果を発揮し、症状の回復がみられます。退院し、通学等、社会への復帰も可能となりますが、数ヶ月年から半年で再発し、腫瘍が悪性度を増して増大していきます。
(6) 再燃
再燃後の治療で確立している方法はありません。多くの場合、「テモダール」や「アバスチン」という薬での化学療法が行われますが、その効果は限定的です。腫瘍を食い止めることは困難で、次第に症状が悪化していきます。
「ステロイド」という薬で腫瘍の炎症を抑え、症状の緩和が図られますが、あくまで対症療法であり、腫瘍は増大していきます。最終的には呼吸や血圧の維持が困難になり、死に至ります。
(7)遺伝子変異
長い間、この病気の治療は不可能とされて来ましたが、近年「DIPG」の特徴として、H3 K27Mという、細胞増殖に関わる遺伝子に変異が発見され、それをきっかけとして、世界で治療法の研究が進み始めました。2024年現在、まだ正式承認された薬品はありませんが、完全治癒はできなくても、個人差はありますが、一定期間、腫瘍の増大を抑制することが期待できる薬品等の臨床試験が米国で始まっています。
◎「DMG」について
WHO(世界保険機関)の分類では、「DIPG」は「DMG」(びまん性正中グリオーマ) とされています。
DMGは、脳幹部だけではなく、視床、延髄に発生する腫瘍を含んだ総称で、H3 K27Mの遺伝子変異が共通しますが、DIPGとは違った臨床像を示します。近年、DMGに適応する薬品の臨床試験も行われていますが、DIPGを除外するケースが多くなっています。DIPGがいかに独特の攻略しずらい疾患かが現れていると思います。
(参考 脳外科医 澤村豊のホームページ/かれんプロジェクト)